ニコル
 そんなふたりの所へ、警官隊が駆け寄ってきてくれた。
 ふたりの表情は笑顔になった。涙はいつの間にか渇いていた。
 一歩、一歩、警官隊が近づいてきた。
 その距離が近づく度に、ふたりの表情はどんどん明るくなっていった。
 ―――助かる。
 そう思った瞬間にふたりは見てはいけないものを見た。聞いてはいけないものを聞いた。

カタカタ、カタカタ・・・。

 ふたりの頭の中には“絶望”と言う言葉さえ浮かばなかった。浮かんだ言葉、それは“死”。恐怖とも悲哀とも取れる表情に変わった。視線の先には金色が見えた。

 ふたりの表情の変化を不思議に思い、警官が後ろを振り向いた。その警官はもう前を見る事は出来なくなっていた。

 足はまだ動かなかった。どんなに泣いても、叫んでも、動かなかった。
 音が一瞬に消えた。
 誰も校舎から出る事は許してもらえなかった。
< 140 / 155 >

この作品をシェア

pagetop