ニコル
 「山口さん、警官隊が突入しました。」
 長瀬が山口の元に報告に来た。山口は相変わらず、言葉を失ったままだった。
 「山口さん?」
 長瀬は山口の顔を覗き込んだ。
 「どうしたんですか?」
 それでも山口は何も答えなかった。ただ、山口の瞳が潤んでいる事に気が付いた。その瞳が何を見ているのか、長瀬は山口の視線を追った。
 まず、真生の首が目に入った。それから、首のない体。
 長瀬は山口ほど冷静ではいられなかった。テレビ局の中継にも、はっきり聞こえるほど大きな声で叫び苦しんだ。
 「うわああああああああ。」
 思わず山口の足にしがみついた。
 「な、何があったんですか?」
 だらしない長瀬の姿に、自分がしっかりしなければと思ったのだろうか、山口はやっと口を開いた。
 「わ、わからん。車の扉が開いて彼女が出てきた。彼女は血だらけだった。なんで、血だらけだったのか、それはわからん。そして、この有様だ。」
 山口は一息おいた。
 「ただ、警官隊を突入させたのは、俺のミスだったかもしれん。」
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