ニコル
 何か白いものが見えた気がした。長瀬は気が動転しているせいだ、無理矢理にでもそう思う事にした。それくらいに精神的にまいっていた。
 しかし、まだ、その白いものは見えた。
 ―――あの白いものはなんだ?
 確信は持てなかった。
 「山口さん。あれ、見えますか?彼女の首の所にある白いもの。」
 真生の体の周りは血で真っ赤に染まっていた。それとは対照的に真生の首があった所はドス黒く、まるでトンネルのように深い黒が拡がっていた。白いものはその黒の中にあった。
 まだ、山口の瞳にはたくさんの涙が居座っていた。そのせいで、なかなか遠くのものをうまく見る事が出来なかった。何度か目をこすり、目を懲らして長瀬が言う所を見た。
 確かに白いものがあった。
 「ああ、見える。なんだ、あれ?」
 山口と長瀬は顔を見合わせた。

カタカタ、カタカタ・・・。

 まず、顎が見えた。それから、口。音を立て、激しく動いている。鼻が出てくる時には、まるで豚鼻のように、思い切り鼻の穴が拡がっていた。陰鬱な視線を山口と長瀬に投げかけた。最後に金色の綺麗な髪の毛が、ふわりと揺れた。
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