ニコル
 呼吸を整え、浩二はベッドから立ち上がった。
 「堺先生、本当にすみませんでした。」
 一礼をして保健室を出ようとした。そんな浩二に堺は声をかけ、足を止めさせた。
 「本当に大丈夫ですか?まだ、顔色はそんなに良くないですよ。無理しないで、今日は帰られたらどうですか?」
 浩二は首を小刻みに左右に振った。
 「今日から転校生が来ているんです。そんな日に僕が帰ったりしたら、彼は不安でしょうがないと思うんです。もっとも、今、こうしている間も不安を感じていると思うんですが。そんな不安を少しでも和らげてあげるのが僕ら教師の努めじゃないですか。」
 堺は浩二の教師という仕事にかける情熱を良く知っていたし、理解していた。だから、浩二がこう言ってくる事はわかっていた。わかっていても止めたくなる、それくらいに浩二の顔色は悪かった。
 そんな浩二の答えを聞いて、堺は慌てて薬箱へと駆け寄った。そして、薬箱から一つの薬を取り出し、浩二に差し出した。
 「じゃ、これだけでも飲んでいって下さい。」
 勢いよく薬を手に取ると水も飲まずにゴクリと薬を飲み込んだ。
 「ありがとうございます。」
 薬のおかげなのか、少なくとも声だけは元気になっていた。
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