ニコル
もうひとりの金髪
 広瀬一馬はニコルの机の上に腰掛けた。塩谷巧はニコルの肩を押さえて立ち上がれないようにした。
 「おい。お前、俺の真似しているんじゃねえよ。」
 ニコルは生まれつき金髪だった。ハーフという事を考えれば当然の事だ。その事は一馬も当然わかっていた。わかっていて一馬はニコルにそう言った。
 「そうそう、これじゃ一馬の金髪が目立たないじゃん。」
 巧のその言葉に、一馬はさらに不満を爆発させ、ニコルの髪の毛を掴み、頭を前後に揺さぶった。
 「そうそう、このクラスじゃこの俺より目立っちゃいけないんだよ。明日からこの髪の色、黒くして来いよ。」
 完全に言いがかりだ。
 そこまでされてもニコルは何も言わなかった。一馬の事を見るわけでもなく、ただ、黒板を見つめていた。
 「無視しているんじゃねえよ。」
 一馬はより激しくニコルの頭を揺さぶった。それでも、ニコルは何も言わなかった。
 他の生徒たちは、ニコルはふたりが怖くて何も言えないのだ、そう思っていた。大友真生もそんな風に思ったひとりだった。
 ただ、真生は他の生徒たちと違って、ニコルに対するいじめに“何もしない”なんて事はあり得なかった。
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