ニコル
 浩二も一馬に併せるかのようにニコルの方を見た。
  ―――見てる。
 その事に気がついた一馬はまた激しく震え始めた。それは尋常ではない震え方だった。
 ニコルの席から一馬の席まで五メートルは離れていた。しかし、その距離をないものにするかのように、ニコルの視線は浩二達に、強くそして重々しく向けられていた。それを感じると、浩二は慌てて叫んだ。
 「保健委員。このふたりを保健室に連れて行きなさい。」
 しかし、誰も名乗り出なかった。
浩二のクラスは、男子は男子の保健委員が、女子は女子の保健委員が保健室に連れて行くと決まっていた。その男子の保健委員は巧だったからだ。
 その事をクラスの誰かが教えてくれた。
 「先生、男子の保健委員は巧君です。」
 クラスメイトの状況を見ていながらも、その声は最近の子供らしくひどく冷静だった。浩二はその声に少し悲しくなった。浩二が子供の頃なら、誰か率先して保健室に連れて行ったものだからだ。
 そんな浩二の気持ちを悟ったのか、真生が手を挙げた。
 「先生、私がふたりを保健室に連れて行きます。」
 浩二は真生に微笑んだ。
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