ニコル

陰鬱な瞳

「今日、転校生が来るんだってな。」
椅子から身を乗り出して、前の席にいる塩谷巧に、広瀬一馬は大声で話しかけた。あまりの声の大きさに巧は少し嫌な顔をしながら振り向いた。
「そんなでかい声で言わなくても聞こえてるよ。」
塩谷と広瀬はおとなしい生徒が多い浩二のクラスの中では特殊な存在だった。家庭環境からだろうか、巧は茶髪、一馬は金髪に染められていた。ただ、その外見とは裏腹にそれほど大きな問題を起こす事はなかった。だから、浩二はその外見を注意する訳でもなく、ただ、見守る事にしていた。その事が二人にとっても、クラスの他の生徒達にとっても良い事だと考えていたからだ。
「どんな奴が来るのかな？男かな？女かな？」
巧は相変わらず落ちつきなく一馬に話しかけていた。周りの生徒達も同じように、口々に転校生の事を噂していた。