キミのコドウがきこえる。
新幹線の駅から音葉に続く道は、ずうっと一車線。
ところどころに見える水の張られた水田を軽トラの窓からぼんやりと見つめた。
不思議なもので、ずっと住み慣れた土地のはずなのに、どこか知らないところのようなそんな気さえしてしまうのは、薄情なのだろうか。
こちらには、そんなにいい思い出がない。
だからなのかもしれないけれど。
「ほら、ついたぞ」
仁成兄ちゃんの声にはっとして目覚める。
いつの間にか眠ってしまったみたいだ。
仁成兄ちゃんは家の向かいにある駐車場に軽トラを止めると、私のボストンバックを持って、ずんずんと歩き始めた。
仁成兄ちゃんは慣れた手つきで玄関の暖簾をめくると、「ただいま」と言って入っていった。
紺色の生地の暖簾には、『山本食堂』と、白い筆文字で書かれている。
『山本食堂』
これが私の産まれ育った実家。
おじいちゃんの頃から続く少し大きめな『古き良き時代』って感じの食堂で、食堂の奥と二階が、家族の住む家になっている。
おじいちゃんとおばあちゃんは引退していて、お店は、私のお母さんとお父さん、そして仁成兄ちゃんの三人で切り盛りしている。
和洋中なんでもある食堂だから、お年寄りから若い世代の人まで昼夜問わずお客さんがいる。