キミのコドウがきこえる。
「……ただいま」
「お帰り。奥に行ってゆっくりしなさい」
入るなり、チェック柄のエプロンを付けた母が出迎えてくれた。
「あれ?娘さん?」
「ええ、そうです。長女です」
母が接客していた60代くらいのおじいちゃんが、私を見てにこりと笑った。
私は、ぺこりと会釈をすると食堂の奥へと続く部屋へ行くため、厨房の手前でスリッパに履き替えると、逃げ込むように厨房に足早に駆け込んだ。
厨房に行くと、白い調理服に身を包んだ父親がいた。
「ただいま」
「……おう」
父は大きな中華鍋を振って麻婆豆腐を作っている最中だったため、こっちに顔も向けずに一言言っただけだった。
「しばらくこっちにいるから」
「……そうか」
しらじらしい会話だ。
別に悪いことをしたわけではないのに、私と父親との関係は17年前からずっとこんな感じだ。