キミのコドウがきこえる。
「成子さんですよね?電話以来ですね。井上翔太です」
そこにいたのはスーツ姿の男性だった。
正座をして覗き込むように私を見ている。
私は慌てて起き上がると、正座をし直して髪の毛をささっと整えた。
「すいません。寝てると思わなくて勝手に入ってきちゃって……これ、お父さんから持ってけって言われた昼食です。良かったら話をしながら一緒に食べませんか?」
そう言って井上さんは、ちゃぶ台を挟んで私と向かい合わせに座ると、大きなごつごつした手で割り箸をパキっと半分に割った。
井上さんが持ってきたのは、焼き魚定食と麻婆豆腐定食だった。
「焼き魚定食と麻婆豆腐定食どっちにします?」
「え……と、麻婆豆腐の方で」
「ははっ!だと思いました」
井上さんは、私が麻婆豆腐定食を選ぶのが分かっていて割り箸を割ったのだろう。
私が答え終わる前には、すでに魚の背に箸を入れ身をほぐしていた。
「あの……井上翔太さん?」
「はい?何ですか?」
井上さんのちょっぴりパーマがかった髪の毛がふわりと揺れ、井上さんの目と私の目がぱちりと合った。