未熟女でも恋していいですか?
手続きに必要な書類は予め聞いて持って来ている。

それらのコピーを提示して、ようやく母の通帳は現金になった。



「こちらの御預金の使い道等がございませんでしたら、当行でお預かりすることも可能ですけど…」



お目目パッチリアイメイクの受付嬢が微笑む。

ここで「お願いします」と言えば、きっとこの人のお手柄になるのかなぁとも思うけど。



「すみません。納骨代や葬儀代金の支払いをこれでするんです」



半分真実。半分は嘘っぱち。



「左様でございますか。では、現金一括でご用意させて頂きますね」


笑顔だけど引き攣ってる。

おネエさんごめんね。このお金以外に、私は母の形見になるものが目に見えてないのよ。



「お待たせ致しました。こちらが残金です」


結構な金額だから通帳の方を指し示す。


「ありがとうございます。お手間をおかけしました」


封筒に入れて頂いてから受け取る。

窓口でバッグの中に戻すと、勢いよく行員に背中を向けた。



「またのご利用をお待ち申し上げております!」


サービス業並みに力のこもった挨拶の仕方にお辞儀を返した。


今夜はこのお金で贅沢をしよう。


母の葬儀代金も納骨代も、全部自分の給料から貯めてきたもので支払ったから。



(それくらいしてもバチは当たらないよね)



軽くステップを踏むように歩き出す。

さっき連れてきてもらった駐車場の所まで来て、ちらっと車を確認した。


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