未熟女でも恋していいですか？
家族がいて賑やかな日常を送っている人には理解できないことだと思う。

私だって、母の倒れる前までは同じ様な気持ちだった。


「音無さんと私は違うもん。理解できなくて当然」


ついでに言うならあの襲われた時の恐怖感も分からないでしょうね。



「仙道さん冷ややかー」


「冷凍人間にでもなろうか？」


雪女じゃ季節外れ。

もうすぐ初夏がやって来る。


「冷凍人間よりも家族を作って幸せになって欲しい。仙道さんには１人きりなんて似合わないから」


音無さんは直ぐにそれを勧める。

私にとってどれだけ難しいかも知らずに。


「そうね……そのうち……」


返事を濁して窓の外に目を向けた。

中庭の常緑樹の葉が新学期当初よりも濃さを増している。



「あの左官工の人、今頃何してるのかしら」


やはり気になるらしい。


「壁塗ってるんじゃない？何処かの家の」


器用で何でもできる男だった。

高島がメンテナンスした家の中は、すこぶる快適に過ごせている。


「イケメンかどうか見たかったなぁ〜〜」


まだ言ってる。


「旦那さんが聞いたら嫉妬しちゃうよ？」


「大丈夫。黙っとけば分からないから！」


ちくん…と胸の痛む言葉だ。

黙っておけば何でも済む。

でも、見えない傷は何処かに必ず付くもんだ。


「私が音無さんの立場ならそんなことしないな……」


本当は母にも秘密を作りたくなかった。


でも、あのことは誰にも言いたくなかった。

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