未熟女でも恋していいですか?
「初めてこの家に来た日な…あれ、実は偶然でも何でもないんだ」


「えっ……」


「カツラのことが気になって様子を見に来たら、壁の塗装が剥がれているのに気がついてチャイムを鳴らした」


えっ!?

えっ!?


「どういうこと!?」


さっぱり意味が分からない。


「お母さんの葬儀があった日、おっさんを連れてこの家まで来たことがあるんだ」


膝が悪いご住職を車に乗せて家の前にやって来た高島は、真っ赤な目をしている私を見かけたらしい。


「来る道すがらおっさんが話してた。母親と2人だけで暮らしている娘さんが独りきりになってしまった…って」


その時は、まさかあの夏の日に話しかけてきた人の娘だとは思わなかった。

住職もそのことを話さず、この最近までそれをすっかり忘れていたらしい。



「……初めてカツラを見た時、憔悴しきってた。泣きながらおっさんを家に招いて、悲しそうな目で藤棚を見つめた…」



蕾も固い冬の枝を見て思った。

あの蔓のように、いつまでも母と一緒に住みたかった……と。


「その顔が忘れられなくて家の前を通る度に気にしてた。時折見かける顔が、いつも寂しそうに見えて仕方なかった」


話しかけるチャンスは無いものだろうか…と伺っていたそうだ。


「いきなり家に行っても怪しまれるだけだと思ったけど……」


高島の言葉がどこまで本当なのだろうかと思いながら聞いていた。

信じられない言葉の数々にすごく戸惑っていた。


< 162 / 190 >

この作品をシェア

pagetop