未熟女でも恋していいですか?
「今夜はローストビーフにしようと思うの」


泣いていた女は顔を上げ、目を擦りながら「泣いてごめんね」と付け加えた。


「い…いいけど…」


あったことを詳しく言わないけど、また後から問い質してみるか。


それよりも………



「カツラ」


「はい?」


離れていこうとする女の腕を握った。

驚いた様な表情から恐怖の色が抜け落ちている。



「好きだ」



堪らず声に出した。

カツラは少しだけ戸惑って、それから嬉しそうに微笑んだ。


「私も望さんが好きよ。一緒に居てくれてありがとう。これからも未熟な私をお願いね」


きゅっと唇の端を持ち上げた。

俺の一番好きな表情で、目を細めて笑う。


光り輝いて見える女は熟した果実のように綺麗だ。

今夜、この女を味見するのか。



(我慢できるか?俺……)


自問自答しながら藤棚の豆を取り除いた。

カツラはキッチンに張り付いて、今夜のご馳走メニューを作っている。



(……さっきの涙は何だったんだ?)


幾ら考えても分からねぇ。生徒って一体誰なんだ。



10年以上も教師をやっていれば、偶然出会うことも多いだろう。



(…でも、泣くほど嬉しい出会いだったってことか?)


女っていうのは時に意味の分からねぇ生き物だ。

あまり深く考えても仕様がないと、思いを巡らせるのは止めた。


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