未熟女でも恋していいですか?
5枚切りの山形食パンを袋から出し、オーブントースターの網の上に置く。

いつもなら自分の分だけだけれど、今日はあの男の分と2枚。




(妙な感覚…)


母と暮らしていた日のことを思い出した。

母は和食党で、パンを食べるのは大抵休日の朝だけだった。




「……旨そう」



やっと起きだしてきた男がテーブルの上に置いた目玉焼きとコーンサラダ、コンソメスープを眺めている。


「顔くらい洗ってきなさいよ。洗面所は向こうだから」


廊下の方を指差した。


「トイレは?」


「洗面所の隣のドア。どっちもプレート付けてあるから行けば分かるよ」


「ん…」



それは返事か。

大人ならきちんと返事しなさい。


(この人は挨拶にも指導が要るな)



どうも教師風が吹いていけない。

恋愛もせずに仕事ばかりをしてきたせいだろうか。






「頂きます!」


顔を洗ってきた男は、昨夜と同じ様に手をきちんと合わせた。

そこだけは指導が要らないようだと思いながらパンにかじり付く。


パリッ!サクッ!と歯触りのいい音を聞くのは50日ぶり。



「んーーーっ!!」



美味しい!身が震える程にっ!!




「プッ!…ガキだな」



しまった。

目の前に人が居たんだ。



「仕方ないでしょ!50日ぶりのパンなのよ!」


「50日ぶり?……あ、そおか」


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