未熟女でも恋していいですか?
「……あの人は知り合い?」


振り向きながら問われる。

知り合いじゃないと言えば嘘になる。

初対面の出会いは昨日済ませていたから。



「え、ええ。まあ……」


曖昧な感じで答えた。


「藤棚の柱が腐っていたので、修理をお願いしたんです…」


「ほぉ。藤棚のね…」


納得するように見つめ返す。

さっきまで鼻歌交じりに手を動かしていた男は、ほぼ塗り終えたように作業を中止した。



「何も無ければいい。もしも、何か困るような時はいつでも言っておいで」


人の良さそうな顔をした白髪の会長さんは、そう言って玄関を離れる。


「ありがとうございます。ご心配をおかけします…」


頭を下げながら見送った。

会長さんは作業を終えた男にも会釈をして、家の敷地を出て行った。





「…済んだぞ」


若干不機嫌そうな声が呟く。

手袋を外した男に目線を向け、負けじと無愛想に答えた。



「そう。どうもありがとう」


だったら早く出て行け。


……とは、何度も口にしたくない。

そんな思いを見透かされた。



「じゃあ出て行くから」


「どうぞ」


顔色一つ変えない私に小さく舌を打ち、防腐剤の缶と刷毛を手にした。



『ぐぅ〜〜〜っ』



途端に鳴る大きな腹の虫の声に呆れる。

ぴくっと引きつる腹筋を感じながら笑うな、笑うな…と必死に堪える。



『くぅ』



二度目の犬の鳴き声のような音に目が点になった。

我慢しているのも限界になり、つい吹き出してしまった。

< 43 / 190 >

この作品をシェア

pagetop