未熟女でも恋していいですか?
すっかり高島のペースにハマっている。

この家の主人は私の筈なのに。


「…じゃあお願いします。部屋に居ますから」


水のペットボトルを冷蔵庫に片付けた。

高島のグラスを受け取り、流しに置いて気づく。



2人分のグラス。

1人ではない安心感。



(ダメダメ!これに慣れてはいけない!)


和室の布団畳みを再開している男に目を向け、とにかく早く出て行け…と願う。

この安心感に支配されてしまう前に、早く1人に戻りたい。




部屋に入って授業の資料集めを始めた。

1年生の現代国語と2年生の古文が私の担当。


国語教師になるのは、子供の頃からの夢だった。

その夢を叶えるべく、それなりに勉強はしてきた。

母も後押しをしてくれた。

女としての幸せも求めないまま、私を大学に行かせる為に身を粉にして働き詰めた。


そして、あっという間にあの世へと旅立ってしまった。




(お母さん……幸せだったのかな……)


火葬場のボタンを押した後、そんな事ばかりを考えた。

親戚の叔父や叔母の話に耳を傾けつつ、頭の中では全く別のことを思っていた。



父が亡くなってからの母は、いつも快活に笑っていた気がする。

誰かに想いを寄せることもなく、父だけを想い続けていたのだろうか。



(それにしては、写真は仕舞い込んだままだったよね…)


出して飾るのは法事の時だけ。

親戚が帰ってしまえば、直ぐにまた引き出しに戻す。

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