未熟女でも恋していいですか?
「どうしてなの?」と聞いたことはない。

母の口から「亡くなった人の顔は見たくない」と聞かされて育ったから。




「愛していたのかな……」


今更聞くこともできない。

父も母も、私の前からいなくなってしまった。




「っすん……」


泣く前に声を出すのが癖になりそうだ。

泣いたら負けだと思っている証拠。


泣くのも笑うのも、まだ早い気がする。

でも、あの男のやる事だけは一々笑えて仕方ない。



…だから調子が狂ってしまう。

私はまだ、父や母の思い出に浸っていたいのに。



「子供だな…」と言われた通り。

寂しさを忘れないようにしようとしているのも、きっと子供のままでいたいせいだ。



(もうすぐ36にもなるのにね……)


我ながら呆れる。

これだから音無さんに見破られる。


「1人で生きるのなんて向かない。早く結婚しなさい」……と。



そんなの言われなくても分かっている。

人一倍の強がりで、強く生きようと決めているだけ。



(だって、私は………)




「おーい、カツラぁー」


ドアの外から呼ばれた。

アオムシだか狼だか知らない左官工に。




「はい…」


ドアを開けて顔を出した。

高島は脱衣所へ続く扉を外し、レールの上を磨いている。



「トンカチあるか?それと、潤滑油みたいな物も欲しい」


「トンカチと潤滑油ね…」

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