なみだ雨
「はるかー!」
「あ、渚、おはよう」
昨日どうだった?大丈夫?
渚がそう言いながらみかんを1つくれた。
「うん、大丈夫。みかんありがと」
バイト先の更衣室で着替える。
まだ熱っぽいが、
昨日に比べたらぜんぜん平気だ。
「はるかちゃーん、ちょっと出るから、店番お願い。すぐ戻るね」
更衣室のドアから理子さんの声がする。
「はあーい、気をつけて」
ガラガラガラと、引き戸の音が聞こえる。
はるかは急いで着替えてお店に出た。
ショーケースの中をきれいに整える。
窓ガラスをふく。
お店の外をほうきではく。
お客さんの合間にそんなことをしながら、
理子さんが帰って来るのを待った。
ドアベルの音がして、
はるかが顔を上げた。
「いらっしゃ…いませ」
常連さんだ。
「昨日はありがとうございました。おかげでもうばっちりです」
「少し鼻声ですね」
バレちゃいましたか、
とはるかは照れくさそうに笑った。
お互い無言になり、
なんとなく気まずい空気が流れる。
「あの…」
気まずい空気を壊したのははるかだった。
「はい」
「どうでした?卵焼き」
「大福の代わりですか?」
はるかが頷くと、常連さんは微笑んだ。
「美味しかったです、ネギ入り」
「ちょっと待っててください」
はるかはそう言うと、奥へと引っ込む。
椅子に座って待たせてもらっていると
しばらくして、
紙袋を持った店員さんが出てきた。
無言で差し出され思わず手に取る。
中には大福やらきんつばやらどら焼きやらいろいろと入っていた。
えっ…と、呟くと、
「賞味期限がもうすぐでお店に出せないものなんです。でも、まだ先のを選びました。よかったら」
「いいんですか?」
嬉しそうに聞いてくる
常連さんにつられて
はるかも笑顔になった。