なみだ雨
ささやかなお祝いとして、スーパーで買ってきたお寿司の入ったビニール袋。
ガチャンという音を立てて床の上に散らばる。
成海がいない。
置いてあった赤ちゃん用のベッドもおもちゃも、ベビーカーも。
テーブルの上に置いてある、
野菜炒めと豆腐の味噌汁。
傍に2つ折りのメモ書きが置いてあった。
読んですぐに家を出る。
鍵なんてかけてる暇はない。
無我夢中で走った。
練。おかえり。お仕事お疲れ様。
練。
世の中には、2種類のひとがいるんだって。
優しいひとと、優しすぎるひと。
これを聞いてね、練。
あなたは優しすぎる人だよ。
人のためなら、自分を犠牲にできるあなたを
わたしは愛していました。
わたし達が、初めて会った日を覚えてますか?
わたしは覚えています。
あの日はみぞれが降っていたね。
濡れて寒くて震えている子犬に自分の上着を被せて、息を吹きかけて温めていた。
その後あなたはインフルエンザにかかった。
自分で里親を探して引き渡す時にあなたは言った。
「よかったな。元気でな」
あなたはまっすぐな人です。
曲がったことが嫌い、嘘が嫌い。
優しすぎるあなた。
あなたみたいな人になって欲しくて、
この子の名前は「純」にしました。
「ますみ」だよ、「じゅん」じゃないよ。
女の子です。
まっすぐな女の子になってほしいです。
練。ごめんね。そしてありがとう。
どうか、幸せに。
一ノ瀬成海