なみだ雨
何も聞かなかった。
帰りたくない理由がなんなのか、
練は絶対に聞かなかった。
それがいいことなのか、それとも逆なのか
わからないけど、でも、
いま聞いてはいけない気がした。
「お風呂、どうぞ。あとこれ、充電器」
練はタオルと、軽く縛った充電器を差し出す。
「すみません」
そう言って受け取ったはるかの手首に
赤黒い痣が見えた。
タオルを持つ手に力がこもった。
「あの…?」
はるかが声をかけると、
練ははっとしてタオルから手を離した。
そのまま何も言わず、
座布団に座った背中が、
なんだか遠く感じた。
手を伸ばせば届くその距離に、
手が伸ばせない。
服を脱いで、自分の手首を見つめた。
「見られたか…」
はるかはそう呟くと、
お風呂場のドアをわざと大きく音を立てて開けた。