イジワルな初恋
「どうだ?移転の準備ははかどってるか?」

店内の商品を時々手に取りながら眺めている部長。

「あ~はい、まぁ一応」

「なんか歯切れ悪いな。相談があったらいつでも言えよ」


〝free man's〟の店員、店長を経て事業部の部長にまで登り詰めたこの人は、平井店長よりもよっぽど信頼できる。

「そういえば、広野君がなんか悩んでましたよ。今日は遅番で出勤してきます」

空になった段ボールをたたみながらそういうと、優菜ちゃんがなにか言いたそうな目で部長を見つめている。

「どうした?そんなに俺がかっこいいか?」

「い、いえ!あ、今のは否定したわけじゃなく、部長はかっこいいですが、そういうことではなく」

「いやいや、優菜ちゃん動揺しすぎでしょ。なにが言いたいのかわかんないよ」

私と部長が笑っていると優菜ちゃんは恥ずかしそうにうつむいた。

「き、昨日きた本社の方々は……」

そこまで聞いてピンときた。多分イケメンとやらのことを聞きたいんだな。鏡部長となら、こういう話も気軽にできる。



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