イジワルな初恋
遅れて行って変に目立つのは嫌だったから、十九時丁度にお店に到着した。

居酒屋の奥にある個室に通された私は、襖の前で深呼吸をして息を整える。

靴箱にはすでに沢山の靴が入っていた。もう少し早く出ればよかったと後悔しつつ、襖を開けた瞬間どんな反応が返ってくるのか、怖くて堪らなかった。


意を決して襖をガラッっと開けると、中にいるみんなが一斉に私に視線を向ける。

その時、誰かが言った。


「梨々香?梨々香じゃない?」

さっきまでの沈黙が嘘のようにざわめき出す。

パッと見ただけでも二十人はいるようだった。

「嘘でしょ?岩崎さん?」

「まじで岩崎?」

「なんか随分雰囲気変わったね」

「すごいきれいになってる」

中学時代はあまり話をしたことがないクラスメイトが、私に次々と声をかけてくる。


十年経つって……大人になるって……こういうことなんだろうな。

昔のことは気にせず、大人同士楽しく飲みましょう。そう言われているような気がして複雑だった。


< 13 / 85 >

この作品をシェア

pagetop