イジワルな初恋
「悪い、仕事が長引いてさ」

聞き覚えのある声に、私は振り返ることができない。

速まる胸の鼓動を必死に堪えるけど、ドキドキが止まらなくて……。

彼に会いたくて来たのに、やっぱり十年前の記憶のまま留めておいた方がよかったんじゃないかって今になって思ってしまった。


ふと隣を見ると、口を開け目を丸くして驚いている古藤さん。

「う、うっそ……あれが中矢?」


ゆっくりと振り返ると、そこには……あの頃よりもずいぶん背が高く、あの頃よりも伸びた髪はほんのり茶色に染まっていて、あの頃よりずっと大人びたその顔と大きな目からは、少しだけ十年前の面影があった。

初めて見るスーツ姿に違和感を感じてしまうけど、そこにいるのは紛れもなく中矢君だ。


「中矢くーん!ほらこっちきて!」

腕を引っ張り、半ば無理やり自分の隣に座らせた古藤さん。

「信じらんない!すごい変わったねーめっちゃかっこよくなったじゃん。まぁ髪型は坊主だったけど、昔からかっこいいなって思ってたよ」

さっきと言ってること全然違うけど……。やっぱ古藤さんも昔と変わってない。

中矢君だってきっと……。


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