イジワルな初恋
「まてよ!」
うしろから急に腕を強く掴まれた。
「……なに」
「久しぶりに会ったのに、なんで帰るの?」
「仕事だから……」
「俺だって明日仕事だし。っていうかさー、俺のこと覚えてる?」
覚えてるに決まってる。忘れたことなんてない。
中矢くんがいなかったら、今の私はきっといないから。
「中矢太一は知ってるけど、あなたは知らない……」
俯いたまま答える。
「なにそれ。俺が中矢だけど」
「そうかもしれないけど、十年前の中矢君しか私は知らないから」
一瞬顔をしかめた後、ため息をついた中矢君。
「十年経って変わったって言いたいの?それはお互いさまじゃない?」
「私のことなんて、なにも知らないでしょ?もう二度と会わないんだろうから、構わないで」
想像してた再会とは、百八十度違った。
暗い空の下、人混みを掻き分け、逃げるようにして中矢君のもとを去る。
頬を伝う涙が、うれし涙だったらよかったのに……。
「りりーだって……変わったよ……」