イジワルな初恋
バタバタと時間は過ぎていき、早番の末永さんが帰ったのは二十時前。二時間の残業で、広野君は結局通し(開店から閉店まで)になった。

そして閉店十分前にようやく客足が途絶え、さっきまでの賑わいが嘘のように静かになった店内。

「あー、疲れた」

商品を補充しながら優菜ちゃんが呟くと、鏡部長がやってきた。

「よー、どうだ?」


「あ、部長お疲れさまです。今日はすごい忙し……えっ!?」



なに?どういうこと?

ちょっと待ってよ、頭が整理できない!

ハッ!そうだ、前に優菜ちゃんが言ってたこと、すっかり忘れてた。部長の言葉も……。


『イケメン?んー……』


まさかそんな。嫌だ、心の底から嫌だ。


「お疲れ様です。free man's事業部の〝中矢〟です」

丁寧に挨拶をし、頭を下げた。

私は返事をすることができない。


昨日会ったばかりだった。しかも別れ際に『もう二度と会わないんだろうから』という台詞を吐き捨てた私。

なによりも大切な私の思い出を、粉々に壊された。

だけど、もう会わないならこのまま忘れられる。そう思ったのに。



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