イジワルな初恋
「とりあえずさ、店長にも相談してもう一度考えてみて」

部長にそう言われたけど、中矢君の意見はきちんと頭に入れてもう一度考える。でも、店長は。

「あの、部長。店長なんですが……」

今の店舗に愛着がない、なんて言えないし、どう伝えればいいのか……。

「岩崎、店長が気に食わないか?」

あまりにもハッキリ言われたことに驚いてしまった。

「気に食わないわけでは……」

「平井店長はさ、ああ見えて結構考えてるよ。突然の異動で戸惑いも多少あっただろうけど、店長なりに色々試行錯誤してるんだ。
言い方がキツイときもあるとは思うが、いつも早番で上がった後は事業部に顔出したりさ」

「え……?」

私は広野君と顔を見合わせる。

いつも定時で上がってたのは、事業部に行く為?


「なんだ、知らなかったのか?あの人も中矢と同じで、意外と真面目なんだよ」



……恥ずかしくて、この場から逃げ出したい気持ちになった。

私、一年間なにを見てたんだろう。


化粧品からメンズ雑貨に変わったと思ったら、次はフロアの移転作業に追われ、自分のことでいっぱいいっぱいで周りが見えてなかったのは私だ。


この場に中矢君がいなかったら、私きっと泣いてる。



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