イジワルな初恋
部長と広野君と別れ、方向は反対だけど電車が同じだということで、私は中矢君と一緒にホームに立っている。

最終に近いこの時間、中々こない電車を無言で待つ。


すると中矢君は、自己嫌悪に陥っている私の頭をポンポンと優しく叩いた。

「いつまで落ち込んでんだよ」

「……」

「あんな偉そうなこと言ったけどさ、俺だって去年事業部に異動したときは結構大変だったんだ。
各店舗の店長はほとんど俺より年上だし、意見を言っても聞いてくてなかったりなめられることもあった。
だから余計にがんばろうって思って、ちょっとは勉強したんだぜ」

ちょっとは、って言ったけど、きっと凄く努力したんだと思う。


ーー『レギュラーになるために、俺だってちょっとは努力したんだ』


野球部だった中矢君が、最後の試合でやっとレギュラーになったときにそう言ってた。

でも私は、毎日遅くまで素振りをしていたことを知ってる。
そういうのをひけらかさないところ、昔と変わってない。


「もう落ち込んでなんかないよ。明日のこと考えてただけ」

こうやって素直になれないところ、私も変わってないな……。

「ならいいけど。あのさ、岩崎」

「ん?」

「やっぱその……彼氏とか、いたんだろ?」

「え……?」

少し恥ずかしそうな表情をして私から目を逸らした中矢君。


「ん、まぁ……」

「もう二十五歳だし、そりゃ男のひとりやふたりくらいいるよな」

「そういう中矢君は、沢山いるんだっけ?」

誤魔化すようにそう聞くと、中矢君は困ったような顔をして俯いた。


もしかしたら同窓会のときに見た中矢君は、ただの照れ隠しだったのかな……。
本当は、なにも変わってないのかもしれない。

そうだとしたら……。


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