イジワルな初恋
「ところで岩崎、中矢は中学のときはどんな奴だったんだ?」

ーーゴボッ

思わず飲んでいた水を吹き出しそうになったけど、それをなんとか耐えた。

「部長、知ってたんですか?」

「ああ、そりゃ知ってるよ。一応部長だし」

なーんだ、と言わんばかりに肩の力がガクンと抜ける。


「お前ら仲よさそうだし、昔付き合ってたりして」

「ちょっと部長、変なことを言わないでください!そんなわけ……ないですよ……」

嘘じゃないから。私たちは付き合ってたわけじゃない。

でもいつもみたいにハッキリ言えないのは、あの頃の自分の気持ちがまだ、宙に浮いたままだからなのかもしれない。

いつかどこかで偶然会ったときには、昔言えなかったことを伝えようって思ってたけど、こんな状態じゃきっと無理だ。

言ったとしても、今の中矢君じゃ『だからなに?』って言われそうだし……。


「なんだ、つまんないなー。付き合っちゃえばいいのに。それとももう誰かいるのか?」

「つまんないって、部下で遊ばないでくださいよ。今は誰もいないし、それに中矢君は私にキツイ言い方ばかりだし、いちいち絡んできて恋愛とか以前の問題です」

「そうかなー?案外そうでもないと思うけど」

「もう!部長まで私をからかうのはやめてください。怒りますよ」


これ以上中矢君の話をしたらボロが出そうだったから、運ばれてきたしょうが焼き定食をわざと口いっぱいに頬張った。



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