イジワルな初恋
休憩を終えて店に戻ると、中矢君の姿が見当たらなかった。


「中矢さんならさっき八木沢さんと休憩行きましたよ」

広野君が私に向かって突然そんなことを言ってきた。

「べ、別になにも聞いてないけど」

中矢君のことを探してるように見えたのかな?そうだとしたら、かなり恥ずかしい。

いや、でもそんなことない!別になにも気にしてないもん。

「さー、オープンに向けて発注発注」

誤魔化すように広野くんから離れた。


余計なこと考えちゃダメ!オープン時の朝に届く商品を発注しなきゃ。
私は忙しいんだから、中矢君が優菜ちゃんとご飯行こうが関係ない。


しばらくしてふたりが帰って来たけど、私は中矢君の顔を見られなかった。

私には見せないような笑顔を優菜ちゃんに向けたり、優しい言葉を掛けてるんじゃないか、そう思っただけで、苦しくなってしまうから。


十五歳の中矢君と今とでは全然変わってしまったけど、それでも私にとって特別だということに変わりはない。

あの頃の思い出は、やっぱり消せないんだ。

だから私は、今の中矢君と距離が近くなることが怖かった。十年前の思いが、甦ってしまいそうだから……。



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