イジワルな初恋
「岩崎、発注は大丈夫か?」

「あ、はい」

閉店後、締めの作業をしているときに店長にそう言われ、返事をした。


休憩の後から、なぜか中矢君は私に一度も話しかけてこなかった。
それどころかいつもはウザいくらい絡んでくるのに、避けられてる気もする。

仕事の話を振っても、返ってくる言葉はなんだか冷たかったし。

思い出が壊されるって思ってたけど、なにもなければないでちょっと寂しい気持ちになってる自分がいた。


「じゃー明日は大変だけど、がんばりましょう」

「はい」

店長の言葉に私たちは大きく頷き、デパートを後にした。



飽きるほど見ているこの夜の帰り道、だけど今日は違和感でいっぱいだ。

駅に向かって歩く私のうしろを、中矢君が少し離れて歩いている。


なんで全然話し掛けてこないの?っていうか、なんか怒ってる?でも私なにもしてないし。

あーめんどくさい!こうやって態度をコロコロ変えて、人の気持ち乱さないでよ!


「ちょっと中矢君!」

ホームに着いた私は堪らず立ち止まり、振り返った。

「なに?」

ぶっきらぼうに返事をする中矢君に、なんだか怒りがこみ上げてきた。

「ずいぶん機嫌が悪いみたいだけど、私なにかした?」

人もまばらなホームの真ん中、私から視線を逸らしたままの中矢君。

「別に」

「別にって……。だって、明らかにおかしいでしょ!?今まで散々ちょっかい出してきたり、ことあるごとに絡んできたくせに。なのに急に私を避けるみたいな態度取って、いったいなにがしたいのよ!」

「俺にからかわれて嫌だったなら避けられてた方が仕事やりやすいだろ?」

「嫌とかそういうことじゃなくて!」



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