イジワルな初恋
確信
一週間後、私は店の取引先であるアクセサリーブランド『eclat』の展示会に向かっていた。

渋谷に着き駅を出ると、あまりの人の多さに一瞬立ち止まり、フーッと小さなため息をつく。


人混みを掻き分け目的のビルに到着し、エレベーターで五階を目指す。

eclatの看板を確認して中に入り受付をしていると、うちの店舗を担当している営業の新保(しんぼ)さんがやって来た。

スラッと背が高くスーツのよく似合う爽やかな短髪に切れ長の目をした三十歳の新保さん。


各商品の担当者さんとは新作などがあるときに店舗まで足を運んで商品の説明をしに来たり、セール品の交渉をしたりと意外と連絡を取る機会が多い。


「お疲れさまです、岩崎さん」

「お疲れさまです。渋谷はあまり来ないので、人混みを見ただけでクラクラしちゃいましたよ」

私の言葉に笑顔で答えた新保さんは、どことなく雰囲気が鏡部長に似ている気がする。

「案内します」

新保さんの後に続き、中へ入っていった。


展示場となっているフロアには、壁に沿って一周する型でガラスケースが置かれていて、すでに何人かの人がそれぞれ担当者と話をしながら商品を見ている。

取り扱っている商品は、高級感溢れる物からリーズナブルな物まで様々だ。


「流行りとしては全体的に大ぶりなものが人気で、このネックレスなんかはフォーマルの場から普段使いまで幅広く活用出来るかと思います」

大きなリングペンダントが目をひくシンプルなチェーンネックレスを新保さんから受け取った。

「すごい素敵ですね」

三階に移ったことで客層も変わったし、こういうシンプルな感じのは少し高くても売れそうだな。

そんなことを思いながらネックレスを眺めていると、よく知っている声がどこからか聞こえてきた。


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