イジワルな初恋
「……ですね、はい。あ、お願いしいます」

声がする入口付近に視線を向けると、そこには中矢君の姿があった。


「あっ……」と思わず出てしまった私の声に気づき視線をこっちに向けたけど、会釈をすることも手を振ることもなく、一瞬目が合っただけですぐに逸らされてしまった。

少しだけズキッと胸が痛む。


「岩崎さん?」

「あぁ、すいません。えっとこれ、すごく気に入りました」

ボーッとしてしまった私の顔を覗き込む新保さんに、焦って返事をする。


「うちにある他の商品と比べて値段も少し高めだし、とりあえず試しに一つだけ置かせていただきます」

そう言って商品名と品番が書かれてあるリストにチェックをした。

店には事業部が決めた商品を置くのが基本だけど、その他にこういった展示会や新商品のカタログなどを見て、各店舗の担当者が仕入れることもできる。もちろん予算は決まっているけど。


「ありがとうございます。次、イチオシがあるんで見てもらえますか?」

爽やかな笑顔を見せた新保さんに付いて行きながらも、うしろにいるであろう中矢君のことが気になってしかたがなかった。


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