イジワルな初恋
「あ、初めまして、新保です。気づかずにすみません」

そう言って名刺を渡した新保さんが、「知ってたなら教えてくださいよ」と言わんばかりの目で私を見た。


「これは新作ですか?」

中矢君が手に取ったのは、赤や青や紫などの石が埋め込まれているリング。

「そうなんです。それぞれパワーストーンがワンポイントになっているリングで、値段もかなりリーズナブルだし、僕のイチオシなんです」


「岩崎さん、どう思う?」

リングを見ていた私に、突然中矢君が聞いてきた。

「えっと、ネックレスやブレスレットはシルバーで大ぶりなものとか、これからの季節は落ち着いたカラーが人気だと思うんですが、リングに関しては流行りに関係なくカラフルな物も好まれるし、石が付いてるのは特に良く売れてます。それにこの商品に関してはコスパもいいですし、私は売れそう……かな?と思います」


チラチラ中矢君の顔を見ながら、自分の思ったことを答えた。


「へー、りりーにしては珍しくまともな意見じゃん」

急に顔を緩ませ、笑顔で私にそう言った。

「え?りりー?」

驚きの表情で私と中矢君を交互に見ている新保さん。


「ちょっと!こんなところでやめてよ」

焦った私は中矢君のジャケットの裾を引っ張り、なるべく新保さんに聞こえないようにできるだけ小声で言った。


「俺もこのリングはうちの店には合う商品だと思うな。メンズ雑貨店っていってもうちは女性客も多いし、サイズも幅広く揃えた方がいいかも」

さっき「りりー」って言ったことに関しては何も触れず、普通に流されてしまった。

恥ずかしくなってうつむいてる私がバカみたいじゃん。

こうやってまた私の反応を見て楽しんでる中矢君を見ると、やっぱり少し腹が立つ。


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