イジワルな初恋
翌日、今日は遅番の為十時に家を出て、お店に着いたのは十時四十五分。

暦の上ではもう秋だけど、駅からデパートまで僅か五分歩いただけでも汗が滲み出てくる。そんなときは、デパートに入ってエアコンの涼しい風を受ける瞬間がたまらない。


「おはようございます」

お客様がいるため小声でそう言い、バックヤードに荷物を置いた。

雑貨店ということもあり勤務時の服装については、常識の範囲で基本お店に合っていれば特に細かい決まりはない。

この日の私は細身のネイビーのパンツ、黒のボーダーのタンクトップに薄手の白いシャツを着ていた。


出勤してすぐ、自分が担当しているアクセサリーとインナーウェアの伝票チェックをする。

「岩崎さーん、おはようございます」

レジの横にいる私に声をかけてきたのは、今年入社したばかりの八木沢優菜(やぎさわゆな)ちゃん二十歳。
ふんわりとしたカールがかかった長い髪を横に一つに束ねている。


「ゆなちゃんおはよー。ところで店長は?」

「朝から本社の人たちが来てどっか行っちゃいました」

本社か。企画部かうち(free man's)の事業部の人かな?

「ていうか聞いてくださいよ!その本社の人たちの中にひとりめっちゃイケメンがいたんです!」

優菜ちゃんが新作のアンダーウェア、つまり男性用パンツを握りしめて目を輝かせている。

「とりあえず……そのパンツ、置こうか」

「あーすいません。つい興奮しちゃって。でもほんとかっこよかったんですよ」


< 6 / 85 >

この作品をシェア

pagetop