イジワルな初恋
翌日、坂の上で待つ中矢君も、学校でいつものようにふざけている中矢君も、今までとなにも変わってなくて、昨日の告白は夢だったんじゃないかと思うくらいだった。


放課後、部室に残っている物を持ってくると言って教室を出た中矢君を、この日も私は待っていた。

昨日の返事をしよう、ちゃんと自分の気持ちを……。

そう思っていると、ガラッという音を立てて教室のドアが開いた。

『あれ?まだいたんだ』

ねちっこい声を出して近づいて来たのは、古藤さんを含めた四人の女子だった。

『ねー、あたし昨日聞いちゃったんだけど……』

古藤さんがクスクスと笑いながら顔を近づけてくる。


『中矢に、告られてたね』

『……!?』

驚いた私の表情を見て、四人は再び笑い出した。


『まさか付き合うの?』

『……』

『あんたが彼女で、中矢は幸せだと思う?』

なにも答えない私にイラついたのか、古藤さんの口調が明らかに変わっていた。

『どういう…意味?』

『ずーっといじめられキャラだったあんたを見て、あいつは可哀想だと思って同情して仲良くしてたんでしょ?』

違う、そんなことないって分かってる。中矢君は同情なんかで私と友達になったんじゃない。

けど、変わったとはいえ古藤さんに言い返せるほど、私はまだ強くなかった。


『なに黙ってるの?まさか付き合うわけ?』

周りにいる三人も、クスクス笑っている。

『やめなよ梨々香ちゃーん、だって可哀想じゃん』

そして私の耳元に近づき、小声で囁くように古藤さんが言った。


『あんたみたいな暗くていじめられっ子の女が彼女だなんて……中矢が可哀想……』


『……ち、違う!!私は中矢君の彼女なんかじゃない!付き合うこともないから!もう構わないで!』

大声でそう言って教室を飛び出した私の前に、中矢君の姿があった。

いつから、ここに……?


『りりー……』


その悲しそうな目を見た瞬間、私は堪らずその場を走り去った。



好きだよ……

大好きだよ……。


中矢君のことが、誰よりも……。




ーー




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