イジワルな初恋
本社の人はだいたい知ってるけど、イケメンなんていたっけ?

強いていえば、事業部の鏡(かがみ)部長は結構ダンディーだけど、イケメンとはちょっと違うかな。

「改装の手伝いでこれからちょくちょく来るらしいですよー」

「ふーん。で、名前は?」

「名前ですか?名前、名前……」

視線を天井に向けたまま考え込んでいると「すいません」というお客様の声が聞こえた。

「はい!」

返事をした優菜ちゃんがお客様のもとへ向い、イケメンのことは私の頭からすぐに消去され、再び伝票に目を向けた。


平日は割りと客足は少なく、変わりに週末や祝日は人で溢れかえる。この日も地下の食料品売り場を除けば人の姿は疎らだった。

「俺分かんなくなりましたよ」

私の側に来てひとり言のようにそう呟いたのは、私の一年後輩の広野(ひろの)君だ。

背が高く少し細身の広野くんは凄く真面目で、なによりこの店に対する愛情が半端ない。

そんな真面目な広野くんが、いつにも増して真剣な表情をしている。



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