イジワルな初恋
やっとの思いで声を掛けたのは三年になってからだった。


三年で初めて同じクラスになって、どうやって話し掛けようか相当悩んだ。

彼女がどうしてあんなことになっているのか分からなかったけど、普通に教室で話し掛けたりしたら、きっと嫌な気持ちにさせちゃうかもしれない。

だからとりあえず、朝の挨拶から始めることにした。


家を出て学校とは反対の方向に曲がり、坂を登る。彼女があの坂を降りてくるのを知っていたから。

坂の上に立っていると彼女がやって来るのが見えた。
挨拶しようと思ったのに、いざとなったらなかなか声が出ない。


彼女が俺の目の前を通り過ぎ、少し先を行ったところでやっと声を出せた。


『おーい、おはよう!』


振り向いた彼女は、まるでお化けを見ているかのような驚きの表情で俺を見た。


一度声を掛けたらこっちのもの。

『りりーって呼んでいい?』

しつこいとかウザいって思われたって構わない。りりーが笑ってくれるまで、坂の上で待つのも教室でちょっかい出すのも、俺は絶対止めない。


そしてあの日、彼女が言ったんだ。


『おはよう。……あの……今日、天気いいね』


その笑顔は少しひきつっていてどこかぎこちなかったけど、それでも俺はりりーの笑顔が見れて、本当にうれしかった。



< 71 / 85 >

この作品をシェア

pagetop