イジワルな初恋
しばらくしてグラウンドから誰もいなくなると、道具を片付けた中矢君がまた私のもとへ走ってきた。

「待たせてごめん、ちょっと座ろうか」

「うん」


私たちはグラウンドの隅にあるベンチに腰かけた。

「今日は休み?」

「夏休みもらったんだ。中矢君も休み?」

「ああ。休日は監督に頼まれてこうやって地元の野球チームを教えたりしてるんだ」

「そっか」


日は沈み、さっきまで公園から聞こえていた子供の声もすっかり消え、辺りは静まり返っていた。

時々吹く秋の風が、グラウンドの砂を巻き上げる。


「あのさ……私、卒業後の中矢君のこと、なにも知らなくて……」

「もしかして、謙二が?」

中矢君の言葉に頷く。

「あ、でも知りたいって言ったのは私だから」

「いや、いいんだ。ほんとはもっと早く自分から連絡するべきだった。でもさ、やっぱなんか色々考えちゃって、結局十年も連絡できなくてごめん」

私は思いきり首を振った。


私だって、ずっと連絡したかったのにできなかった。傷つけたうえに避けるようにしてしまったこと、怖くて勇気がでなくて……。


「ずっと言いたかったことがあるの」


私たちは逸らすことなく互いの目を見つめる。


< 77 / 85 >

この作品をシェア

pagetop