イジワルな初恋
ふとグラウンドの時計を見ると、十九時を回ろうとしていた。

「そうだ、すき焼き!」

「すき焼き?」

「今日の晩ごはん、すき焼きにするって言われてたんだった。帰らなきゃ」


そう言って立ち上がった私を

中矢君が後ろからギュッと抱きしめた。


「まだちゃんと言ってなかった」

昔よりもずっと大きな体が私を包み込み、その低い声が私の耳を熱くする。


「これからもりりーが笑っていられるように、ずっとそばにいたい。だから、俺と付き合ってくれないか?」


ドキドキと胸が高鳴り、上手く言葉が出ない。

「あっ、えっと……私……」

すると中矢君は、私の体を自分の方へ向けさせた。


「今度は返事、待たないよ。今すぐ、聞きたい」


恥ずかしくてうつむいていた私は、顔をあげ中矢君を見つめる。


「私でよければ……お願いします」


その瞬間、彼はもう一度私の体を抱きしめた。

空白の十年間を埋めるかのように、強く強く……。


「あっ、ごめん!」

突然そう言ってパッと体を離した中矢君。

「どうしたの?」

「汚れてたんだった……」

さっきまで野球をやっていた中矢君のジャージは砂ぼこりで汚れていて、私の服にもそれが移っていた。


「なんだ、そんなことか」

私はそう言って、今度は自分から中矢君に抱きついた。


「十年前も、今も、大好き……」


< 80 / 85 >

この作品をシェア

pagetop