イジワルな初恋
イジワルな初恋
「ありがとうございましたー」
二十一時十分、最後のお客様を見送り、遅番の優菜ちゃんと広野くんと三人で締めの作業を始めた。
「岩崎さん夏休みどうでした?どっか出掛けたんですか?」
「実家に帰っただけで、特になにかしたわけじゃないよ」
そういえば、優菜ちゃんには結局誤魔化したままだったんだ。優菜ちゃんは同僚であり、数少ない大切な友達のひとりだから……。
「あのね、優菜ちゃん。実は……その、中矢君と……付き合うことにな……」
「キャー!うっそうっそ!マジですか~!?」
最後まで言い終わる前に、ものすごいテンションで飛び上がっている優菜ちゃん。
「絶対そうなると思ってたけど、よかったですね!大好きな岩崎さんがハッピーになれてほんとうれしいです!」
「あ、ありがとう。まさかそんなに喜んでもらえるなんて」
「喜ぶに決まってます!最近の岩崎さん元気なかったし」
私の手を握りブンブンと振りながら笑顔で言った。
「ちなみに俺も喜んでますよ」
バックヤードからひょいっと顔を出したのは広野くんだ。
まるで結婚するかのようにふたりに何度も「おめでとう」を言われて正直恥ずかしかったけど、でもすごく嬉しかった。
「今度は私の番ですね。岩崎さん応援してください!」
「応援って?」
「鏡部長ですよ。あの年まで独身ってなんか怪しいですよね?でも一筋縄ではいかない感じが、逆に燃えちゃいます!」
冗談なのか本気なのか分からないけど、そんな張り切ってる優菜ちゃんを見ている広野くんが、すごく複雑な表情をしていたのを私は見逃さなかった。
この店もまだまだひと悶着ありそうだな。