さよならは言わない
かなり広めのフロアで営業部は仕切りがなく天井から吊り下げられているプレートに1課から3課までが書かれていた。
私が勤務する3課のプレートの並びのデスクを見ると、新入りの私の存在が気になるのか皆の視線を集めていた。
その視線の中に親友の武田友美の姿を見つけると友美は小さく私に手を振ってくれた。
同じ会社で勤務出来るからと喜んでいたけれど、まさか、同じ部署で働けるとは夢にも思わなかった。
嬉しくて飛び上がりたくなるほどだった。
だけど、今は部長への挨拶が先だ。
私が近付いてくるのを見ていた部長は自分のデスクに座った。
「おはようございます。本日派遣社員として参りました笹岡絵里です。宜しくお願いします」
「ああ、今日から3か月間よろしく頼むよ。君は営業3課で勤務してもらう。最初の内は慣れないことも多いだろうが分からない事は何でも社員に聞いて仕事をしてくれ」
挨拶を済ませると部長は椅子から立ち上がり営業3課の森田と言う男性社員を呼んだ。
「はーい! 今行きます」
部長に呼ばれたのにのんびりとした動作でやって来たこの森田という人は、見た感じの雰囲気もおっとりしていて仕事が出来ているのか心配になるような人に見えた。
「彼は森田と言ってやり手の営業マンだ。君には彼の下で仕事をやって貰う。森田、念願の事務補助だ。今回の企画が終了する3か月間だけの契約だ」
「たったの3か月ですか? ちと厳しいですね。毎日残業になりますけどいいですか?」
残業がある?
そんな話しは一言も聞かされていない。
私は決まった勤務時間内で業務を終了することになっている。
もし残業を強制させられるのであれば派遣会社の田中さんに相談しなければならない。
「あの、残業が必要でしたら一度派遣会社の方へ連絡が必要になりますがよろしいでしょうか?」
「あ? そんなのあるの? 面倒な人が来たな。部長、残業できない人材は必要ないですよ」
いきなり、ここでも私は要らない者扱いをされてしまった。
出だしから困難な日になってしまった。