さよならは言わない
「おまたせ!」
ロッカールームのドアが開くと、友美を見た江島さん達は急いでこの場から去って行った。
友美は私が江島さんらに囲まれているのを見てかなり怒っていた。
「一体なんなのよ。文句あるならいけ好かない専務に言えばいいのよ! それより、絵里は大丈夫だった? 何かされなかった?」
「大丈夫よ」
「何を言われたの? 専務と別れろって言われたんでしょう?」
「うん。でも、それは尊に言う様に言ったわ。だって、私にはどうにも出来ない事だから」
「絵里、最近少し顔色良くなったのは専務のお蔭なの?」
「さあ、どうだろう?」
美香の仏壇の前に座っている尊を見て私は罪悪感で涙が出そうになる毎日を送っているけれど、それでも尊と一緒に過ごせるのが嬉しくて私の心は喜んでいる。
こんな自分が情けなくて悲しくもあるけれど、尊の瞳に私はその悲しみを忘れることができる。
偽りの関係でも、優しくされるとそれだけで心は穏やかになっていく。
朝、目を覚ますと尊が居てくれる。朝日を浴びた尊の笑顔が嬉しくて何度もこんな朝を迎えたいと思っている。
期間限定の恋人なのに、私はこの生活が永遠に続いてくれるように願っている。
「良い顔しているよ。幸せなら今は何も言わずにいるよ」
「ありがとう、友美」
「でも、少しでも絵里を傷つけるような時は私も容赦しないよ、あの男を」
友美は私の苦しむ過去を知る唯一の人なのだ。
だから、友美が尊を快く思わないのは当然のことだ。