さよならは言わない
偽りの結婚
尊が毎日の仕事に集中できるように私を尊のマンションまで友美に送ってもらっていた。
けれど、友美に何時までも迷惑をかけられないからと尊を説得し私は一人でマンションまで帰るからと伝えると、尊は私に運転手を付けてくれた。
尊の車とは別の見るからにセレブご用達の高級車と言うイメージの車だ。
こんな待遇を受けるなんて気が引けるからと断ったけれど、尊は私にはNOとは言わせることはしない。
「最近、調子が良いようだな。貧血もなさそうだし栄養不足という顔色でもないし安心したよ」
尊は私の頬に触れると嬉しそうな表情でそう言ってくれた。
私を心配すると言う尊の言葉は信じられるものだと最近何となくそう感じてしまうのは、私がそうあって欲しいと望んでいるからだろうか?
契約だから尊に守られているのでもいい。今だけでも尊に愛されている錯覚に陥ることで私の心は救われていくようだから。
私が期間限定の恋人と言う事実を忘れなかったらそれでいい。
「ありがとう、尊」
「絵里、今夜も残業はダメだからな。それに、俺も今日は早く帰る。だから仕事が終われば迎えに行くよ」
「何かあるの?」
最近の尊は忙しくて毎日遅い帰りだ。毎日の睡眠時間が少なく尊の方が倒れないかと体調を心配してしまう。
「今日は美香の月命日だろ? そんな日は出来るだけ一緒にいてやりたいんだ」
尊は美香をとても大事にしてくれる。
それがどんなに有難いことか身に染みて思い知る。