さよならは言わない
「美香の月命日のお経をあげてくれる人がいないの。だから、仏壇に美香が喜んでくれそうなお菓子やおもちゃをお供えして手を合わせるだけなのよ」
私にはそれくらいしかしてやれない。
何も分からずにこの世からいなくなった我が子に、生きていたら食べたであろうお菓子や遊んだであろうおもちゃをお供えすることが私に出来る精一杯のことなのだ。
「もし生きていたら今は4歳か?」
「そうね、誕生日がくれば5歳になるわ」
「3回忌は終わったんだな」
「ええ、次は7回忌よ。早いものよ。葬儀を終えたかと思えばすぐに3回忌でしょ。私はまだその頃は仕事が出来る状態になかったから随分友美には世話になったの」
あの当時は友美がいなければ私の精神状態はきっと正常に保てなかった。
友美が居てくれたから今の私はある。
友美が私を支えてくれたから私は生きていられた。
だから、友美は私にとっては命の恩人ともいえる大事な親友。
「絵里、今夜は大事な話があるんだ。夜は外で食事をしたいんだが」
「美香の月命日は一緒にいるんじゃなかったの?」
「外食するだけだよ。その後は美香が喜びそうなものを買って帰る」
「ええ、分かったわ」
尊は私の額に優しくキスすると私から離れてしまう。
一緒に暮らしていても尊は私にそれ以上触れようとはしない。
期間限定とはいえ恋人同士になる上に一緒に暮らすのだからもっと親密な関係になるのかと思っていたけれど、尊は私の額や頬にキスはしてもそれ以上触れることはしなかった。
夜、眠る時もそうだ。同居始めて数日間は尊は美香の仏壇の傍で眠っていた。その後は、一緒に寝室で眠りはするが抱きしめられて眠っていてもそれ以上触れることはしなかった。