さよならは言わない
尊に触れられない事が寂しくもあるけれど、期待外れな気持ちになるのは私が尊と親密な関係になりたい気持ちがあるから。
あれだけ傷つけられて泣いたのに、また傷つけられたいのかと友美には怒られてしまいそう。
だけど、どうしても自分の心は騙せない。
私は今もまだ尊のことを想っている。
「絵里、そろそろ出かける」
「まって、今行くわ!」
会社へ行く準備が出来ると尊の運転で会社へと向かう。
いつもの光景だけれど、こんな生活が何時まで続くのだろうかと契約期間の残り日数が減るたびに不安に駆られてしまう。
だけど、こんなことを気にしていたら契約期間終了した時に私の心は修復できない程に壊れてしまう。
私は契約された期間をただ楽しめば良いと心に言い聞かせるしかないのだから。
こんな生活は期間限定のもの。私は一生手に入らない生活なのだと忘れてはいけない。
「おはようございます!」
いつもの様に営業課へと挨拶をしながら入っていく。
私の挨拶など殆どの人が無視するなか、いつも、森田さんだけは挨拶を交わしてくれる。
けれど、その森田さんは私を顔を見るなりいつもとは違う様子だった。
周りを見渡しても営業部のどの課の社員達も私が現れると一斉に視線を浴びてしまった。
異様な雰囲気に私はまた何事が起きたのかと気持ちが落ち着かずにいると、見たこともない社員が一人私の方へと近づいてきた。
営業課の社員のような雰囲気の人ではなく、見るからに高そうなスーツを身に纏ったエリート社員らしい人だ。