さよならは言わない

「社長の松崎だ。君は笹岡絵里さんだね?」

「はい、そうです」


見た目の雰囲気と違って柔らかい物腰の優しい声に尊を思い出した。

この人は尊の父親なのだと直ぐに分かってしまった。

それくらい尊と似た雰囲気を持っていることと話口調で分かった。


「座りなさい」

「はい」


優しい物腰だけれど、尊同様この人もNOと言わせない威厳がある。

まるで尊を30年程老けさせた感じの人だ。



「岩下君、外は頼んだよ」

「はい」


社長室まで案内してくれた秘書の岩下さんは部屋から出て行ってしまった。

この部屋に社長と二人だけかと思うとますます緊張で息苦しさを感じてしまう。

私は本当に無事にこの部屋を出ることが出来るのだろうか?

私が座ったソファーの真正面の一人掛けのソファーへと座った社長は足を組むとソファーにもたれ掛かり私の顔を見て微笑んでいた。

私を不安にさせない為なのか、何かを聞き出すのに私の機嫌を損ねないようになのか。

呼び出された理由が何なのか私は社長の顔をまともには見れなかった。


「君のことは調べさせて貰ったよ。尊とは随分前から交際していたようだね。君は今尊と一緒に暮らしているようだが、尊とはどこまで話しをしているのかな?」


やっぱり、尊との交際を反対する為に呼ばれたのだ。

だけど、私は契約した恋人で本物の恋人ではない。

社長の心配には及ばないことなのに。


「尊は女とは遊びのはずだが君とだけは同棲しているね。それがどういう意味なのかを知りたいのだが」


この人も尊と同じだ。私が玉の輿を狙った財産狙いの女だと思っている。
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