さよならは言わない

「意味はございません。尊さんとは以前交際していましたが何年も会っていませんでした。最近再会したので懐かしくて昔話で盛り上がって暫く一緒にいるだけです」

「意味はないと言うが、それはどういう事なのか分かるように説明して貰えないか?」

「私と尊さんには共通の未来はないということです」


この言葉を聞けばこの人も安心するでしょう。自分の息子が脅迫めいた契約をもちかけ、私を縛っているなんて言えばきっと卒倒するでしょうね。


「それは有り得ないことじゃないのかね?」

「どういう意味でしょうか?」

「君は尊の家族である私達に大事な話をしていないと思うが、違うのかな?」


社長の言う意味の方が私には理解できない。

理解出来ないと言うよりその話題を避けたいというのが本音だ。


「私の孫を君が産んだのは調査済みなんだよ。そして、その子が亡くなったことも」


やはり、美香を生んだことも美香が亡くなったこともこの人は調べていたんだ。

その事で私は責められるの?
それとも、また美香を生んだことで私は財産目当てと罵られるの?


「その後体調を崩してかなり伏せていたようだが、もう体の方は大丈夫なのかね?」

「はい……何とか」

「それで、亡くなった子の名前は何というんだい?」

「美香と言います。女の子でした」


社長に何を言われるのか体が強張り顔も引きつってしまったけれど、恐る恐る社長の顔を見ると私を睨んでいるかと想像していた顔とは違いとても優しい顔をした、まるで美香の祖父のような表情の人になっていた。
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