さよならは言わない
尊の結婚宣言に私の心臓は止まるかと思ってしまった。
妊娠した時にそのセリフを言われたら、それは私は天にも昇る程に喜んだと思う。そして、きっと、幸せな生活のなか美香がお腹の中ですくすくと育ち、もしかしたら突然死などにはならなかったかもしれないのに。
あの子が死んでからこんなこと言われても嬉しくもなんともない。
それどころか尊が亡くなった我が子への執着から私と結婚したがっているように聞こえる。
「俺の娘の法要をしてやりたいんです。俺にはもうそれしかあの子にしてやれることがないから」
尊のその言葉を聞いて更に心が痛んだ。
尊の結婚発言は私と結婚したいからではないのだと。
自分の手に抱けなかった我が子への罪滅ぼしをしたいだけだと言っているようなものだ。
「松崎家の墓に入れてやりたいという事か?」
「はい。共同墓地で一人眠る娘が哀れでなりません。せめて、先祖代々の墓であの子の血の繋がった人達と一緒に居て欲しいんです」
「そうだな、いずれは私も世話になる墓だ。孫と一緒に眠るのもいいだろうな」
この人達は何を言っているの?
共同墓地で一人眠る美香に寂しい思いをさせたくないという気持ちは有難いけれど、それだけの為に尊は私と結婚すると言うの?
尊は私を財産目当ての女と蔑んでいたのよ。
そんな女だと未だに想っている尊と結婚生活なんて送れるはずはないわ。