さよならは言わない
「絵里も異存はないだろう? 俺との結婚は以前から考えていたことだろう?」
それは妊娠した時に尊と幸せな生活を送ることが出来ると夢見たからであって、結婚したいから妊娠したんじゃないし、お金が欲しくて尊に近づいたのでもないわ。
もうこの世にいなくなった美香の為に結婚なんて出来ない。
「美香は松崎家の娘ですからそちらのお墓に移して貰っても構いません。美香は喜ぶと思います。でも、私は結婚する気はありません」
こんな結婚は辛いだけ。今の偽りの恋人と同じ偽りの結婚が待っているだけ。
そんな辛い生活は私には出来ない。
「尊、二人で話し合っていないのか?」
「絵里は俺との結婚を拒んだりしない。そうだろう?」
尊の力強い手に引き寄せられる肩に痛みを感じてしまう。それは尊の結婚の申し出を断ることが出来ないと言われているようだ。
これも契約結婚なのだろうか?
辛くて苦しい生活は一体どのくらいの期間続けられる予定なのだろうか?
「あの、私は、」
「絵里と二人で今後の話し合いをします。絵里は喜びと緊張で上手く言葉に表せないんですよ。さあ、俺の部屋へ行こう。そこでもう少し話を煮詰めようじゃないか」
抱き寄せられる尊の腕が強くて何も言えず仕舞いで終わった。
社長は尊の言葉を信じ終始笑顔でこの話し合いは終わってしまった。
私が尊と結婚することに反対しなかった社長は、私を受け入れてくれるつもりなのだろうかと信じられない気持ちでいっぱいになった。